尊厳死。
生きることは権利なのか義務なのか。
愛情とは本人の意思に反して生かすことなのか意思に沿って死なせてあげることなのか。
息子のように愛するマヌエラ。
死なせたくないロサ。
一緒に死にたいフリア。
それぞれの愛情がそれぞれに重みを持つ。
自殺は罪に問われない。現代の法治国家では、原則として取り入れられている概念だ。
しかし、宗教ではそれを禁じている。
政教分離を唱える国家にとって、この矛盾をどう考えればよいのか。そう作品中では問題提起していた。
答えは簡単だ。
自殺幇助と他殺の区別をどうつけるのか。それが解決されない限り、尊厳死の問題は解決しない。
それでも、死を望む人がいて、それを助けたいと望む人もいる。
ラモンは言う。「僕を本当に愛してくれるのは、僕を死なせてくれる人だ。」
それはそうなのかもしれない。
法がどうこうではなく、自分が何を望むかが本人にとっては一番の問題だから。
それは周囲の人の想いを裏切ることかもしれない。何十年も他の事を犠牲にして彼に尽くしてきた人たち。純粋な愛情を注ぐ人たち。
それでも、彼の関心は自分が幸福であるかどうか、であって、周囲の人がどう思うかではなかった。
少なくとも彼の幸福とは、自分の存在をこの世界から消し去ることだったから。
邦題の「海を飛ぶ夢」。
原題は「MAR ADENTRO」。
『内なる海』のほうがしっくりくると思うのは僕だけではないはずだ。
空想で海まで飛ぶシーンにかかるのはトゥーランドット。
人の空想は果てしなく時間も空間も越えてゆく。
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